楽器の練習時に必須のアイテムと言えばメトロノームと思う方も多いのでは無いでしょうか?
一昔前はメトロノームで練習しても意味がないと言う都市伝説的な事が囁かれていましたが、音楽活動を30年継続している中でメトロノーム練習を疎かにしているプレーヤーは100%の確率でリズム感が悪いと感じます。
メトロノームでの練習が敬遠される理由として機械的なリズム感、グルーヴ感が身に付くのを心配されている方が稀にいます。
この考えは大きな間違いで、メトロノーム使用して機械的なリズム感を習得するのが目的ではなく、どんな状況でも柔軟に対応出来る正確なリズム感を養う為に使用するのです。
この記事では効果的なメトロノームの使用方法を解説していきます。正しい利用方法さえ知っていれば楽器上達には欠かせない必須アイテムとなるでしょう。
リズムの種類
メトロノーム練習方法を解説する前にリズムの種類についてご説明します。
一口に『リズム』言ってもいくつかの意味や要素があり、以下の3種類に分けることができます。
- リズム感
- タイム感(テンポ感)
- グルーヴ感
リズム譜面を題材にして順番に解説していきます。
リズム感
リズム感とは音の長さを感じる能力のことです。
楽譜に記載された4分音符や8分音符などの音符を演奏できたり、聴こえてくる音の長さ(音符)を認識できる能力がリズム感です。
以下の譜面をご覧ください。4分音符、8分音符、3連音符、16分音符が1小節ずつ記載されています。メトロノームを使用して指定されたBPM=60で弾いてみましょう。この課題で正確なリズム感を持っているか判断する事ができます。(譜面ではC音に指定していますがどの音程でも問題ありません)
いかがでしたか?各音符がしっかり弾けていないとクリック音からズレてくると思います。特に3連音符⇄16分音符の切り替えが難しく感じると思いますがこの課題に苦労する方はリズム感が足りていないと思われます。
基礎的なリズム感を養うための練習は以下の記事でまとめています。かなりのボリュームがありますが毎日少しずつトライしてみてください。
上記リンクはベーシスト向けのエクササイズとなりますが、練習方法の項目にて全楽器に対応したリズムのみを記載した譜面をダウンロードいただけます。
譜面に記載された音符を理解して弾けることは重要なスキルですが、聴こえた音の音価(音符の長さ)も理解できなければ正確なリズム感を持っているとは言えません。
いわゆる聴音や耳コピをしてこのスキルは身につけられます。これに関しても以下の記事で詳しく練習方法を解説していますので是非ご一読ください。
タイム感
タイム感とは様々なリズムパターンを一定の速度で演奏できることの能力です。タイム感がある人は一定のテンポをキープすることができます。
こちらの課題をメトロノームを使用して以下の順番で弾いてみてください。
- BPM=120にセットして弾く(4分音符でクリックが鳴っている状態)
- BPM=60にセットして1と3拍目に鳴らして弾く
- BPM=60にセットして2と4拍目に鳴らして弾く
- BPM=30にセットして1拍目に鳴らして弾く弾く
- BPM=30にセットして2拍目に鳴らして弾く弾く
- BPM=30にセットして3拍目に鳴らして弾く弾く
- BPM=30にセットして4拍目に鳴らして弾く弾く
1、2番は問題なくても3番からレベルが上がり、特に4〜6番は難しく感じられたのではないでしょうか?
1〜3番を難しく感じる感じる方はリズム感が足りていないと思われますので後に解説する練習方法をご覧下さい。
メトロノームを鳴らす回数を減らしてもズレることなく演奏できた方は正確なタイム感(テンポ感)を持っています。
グルーヴ感
グルーヴとは『ノリ』を意味します。思わず体が動いてしまう心地良いリズムと捉えてください。どちらかと言えば機械的で正解なリズムではなく人間味溢れるリズムを指します。
冒頭で述べたように、メトロノームを使用して練習することによって機械的なリズム感になってしまいグルーヴ感を得られないのでは?と思っている方がいるかもしれませんが、どんなに頑張っても機械的なリズムの習得はできませんのでご安心ください。
確信を持って言えることですが、リズム感とタイム感の練習を取り組むことによってグルーヴ感を生み出すことが可能です。リズム感とタイム感の練習を疎かにしてグルーヴ感は習得できません。
練習方法
それでは本題の練習方法について解説します。
リズム感を養う練習
基本となる4分、8分、3連、16分音符と休符の頭と体で理解しましょう。先程も紹介したこちらの課題(ジャズベース講座基礎編Part6)をしっかりと取り組んでいただければリズム感の基礎は身につくはずです。
また全楽器に対応したリズムのみを記載した譜面は以下からダウンロード可能です。
練習方法の例として最初は単音で行い、慣れてきたら好きな音の組み合わせで(スケール等)応用できると更に効果があるでしょう。
楽器を使ってこれらの練習を行うことはもちろんですが、楽器を使わないでリズムを歌う『ソルフェージュ』という練習も是非やってください。その際に利き手で指揮をしながらリズムを歌うことが極めて重要です。
4/4拍子はこのように指揮します。写真では伝わりにくいかもですが、『下→左→右→上』の順番に手を動かすイメージです。
参考までに3/4拍子はこのように指揮します。『下→右→上』の順番に手を動かすイメージです。
この指揮をしながらリズムを歌う練習の重要性は中々伝わらないのですが、音楽大学でもイヤートレーニングやソルフェージュの授業で必ず行います。
リズムを理解する為には自身が歌えないと楽器でも演奏できません。当然のことですが指が自動的にリズムを演奏してくれる訳では無いのです。逆に歌えれば必ず弾けるようになります。(フレーズの難易度により指使い等の練習は必要ですが)
楽器でリズムの練習をする事と同じか、それ以上に効果がありますので是非実践してみて下さい。
タイム感・テンポ感を養う練習(基礎編)
基本的にリズムの種類で解説した方法でタイム感・テンポ感を養う練習をします。
ここではCメジャスケールを題材にして解説しますがどのようなフレーズにも応用できると思いますので普段の練習メニューに取り入れてください。数ヶ月後には格段にタイム感がアップしているはずです。
4分音符でのスケール練習を想定した内容ですが、8分音符で練習する場合も同じ方法でメトロノームを使用してください。考え方として以下を参考にしてください。
- 全ての拍で鳴らす
- 1と3拍目に鳴らす
- 2と4拍目に鳴らす
- 各小節の1・2・3・4拍のいずれかを鳴らす(各小節1拍目のみ等)
- 各小節の1・3拍の裏拍のみ鳴らす
- 各小節の2・4拍の裏拍のみ鳴らす
3連音符と16部音符のフレーズも上記と同じ方法でメトロネームを使用します。参考までに以下の譜面でご確認ください。
色々なフレーズにも応用できると思いますので普段の練習メニューに取り入れてみてください。数ヶ月後には格段にタイム感がアップしているはずです。
タイム感・テンポ感を養う練習(上級編1)
更に上級者レベルを目指す方はこちらもチャレンジしてみてください。
これまではメトロノームを4分音符単位で鳴らして練習してきましたが、付点四分音符でメトロノーム鳴らして練習する方法があります。特にウォーキングベースラインやドラムのレガート練習に有効ですので、ベーシストとドラマーさんは是非トライしてみてください。以下譜面はウォーキングベースラインを例にしたものです。(コード下に記載されているリズムがクリックの位置です)
クリック音と4分音符で刻むベースラインがズレていくので最初はかなり手こずると思います。コツとしては3小節単位でクリックが1拍目に戻ってきますので、そのタイミングで合っているか確認するといいでしょう。
タイム感・テンポ感を養う練習(上級編2)
変拍子の練習もタイム感・テンポ感を養う良い練習になります。『普段変拍子を演奏することはないから練習する必要はない!』と考えずに是非チャレンジしてみてください。引き出しが多い方が演奏も安定して余裕が出ますし、リズムを立体的に捉える感覚が身に付きます。
変拍子で演奏頻度が高いのが5拍子と7拍子になります。これら拍子のメトロノームのクリック配置位置はいくつかありますので下記譜面を参考にしてください。
ジャズスタンダード曲『All The Things You Are』の冒頭8小節を5拍子と7拍子にしたベースラインを例としています。
5拍子
基本的に5拍子は3拍と2拍のグループに分けて考えますので1拍目と4拍目にクリックを鳴らします。
3拍と2拍のグループに分かれるという事は3/4拍子と2/4拍子の複合拍子と捉えて演奏すると混乱が少ないです。上記の譜面を複合拍子で書き換えると以下のようになります。
7拍子
基本的に7拍子は2拍ー2拍ー3拍のグループに分けて考えますので1・3・5拍目にクリックを鳴らします。
2拍ー2拍ー3拍のグループに分かれるという事は4/4拍子と3/4拍子の複合拍子と捉えて演奏すると混乱が少ないです。
複合拍子で記譜した7拍子譜面のクリック位置を確認してください。
慣れてきたら4/4拍子のクリック音を1拍目だけにすると更に効果が上がります。
グルーブ感の練習
ここまでリズム感とタイム感を向上させる効果的なメトロノームの使用方について解説してきましたが、これらを実直に練習していても自然とグルーヴが身につく訳ではありません。
『リズム感もタイム感も身に付けたいが、一番欲しいスキルはグルーヴ感だ!』と思っている方は多いのではないでしょうか?
私なりに解釈すると『グルーヴ』=『生きた音』『生きた音楽』となります。
このグルーブを生み出すポイントやコツを以下にまとめてみましたので参考にしてください。(ベーシストの立場から例を挙げていますが全楽器プレーヤーさんにとって参考になると思います)
- 強弱を付ける
- テヌートやスタッカートで音の長さを調整
- スライドやグリッサンドで音の入りや切れ目に表情をつける
- 固い音や柔らかい音などの音色の変化
- 弾む音や沈む音などの変化
- オントップ(前ノリ)、ジャスト、レイドバック(後ノリ)で絶妙なタイムの変化をつける
- 好きなプレーヤーの演奏をフレーズだけでなく上記1〜6番に着目して耳コピする
- 自分よりレベルの高いプレーヤーと演奏する機会を増やす。
リズム・タイム・グルーヴ感以外に習得するべきスキル
ここまでリズム・タイム・グルーヴ感を向上させるための解説をしてきましたが、アンサンブルを行う上でリズムに関係する重要なスキルがあります。
それは4小節単位で進行を把握できる能力です。簡単に言うと4小節を難なく数えられる能力です。ジャズスタンダードや他の多くの曲は4小節単位、または8小節単位でセクションが分かれていますのでこのスキルは絶対必要です。
指で数えないと把握できなかったり、頭の中で必死で数えなと4小節が把握できない状態ではアンサンブルの際に今どこをやっているか分からないという状況になります。(このような迷子状態を音楽用語で『ロストする』と言います)
4・8小節単位で進行を把握できるスキルを身につける練習方法は音源を聴いて小節を数えるだけです。ジャズスタンダード曲であれば8小節×4セクションで構成されている曲がほとんどですのでお勧めです。この際に譜面を目で追いながら小節を数える練習をすると更に効果が出るでしょう。
譜面をお持ちでない方はジャズスタンダードブックがあると便利です。曲の勉強はもちろん、セッションに参加する際の必須アイテムです。
おすすめメトロノームアプリ
変拍子以外の練習で用いるメトロノームはどのような物(アプリ)でも良いと思いますが、固い音と音量で出る物がお勧めです。
変拍子練習を含め全ての練習で大いに活躍してくれる無料のメトロノームアプリをご紹介します。オーディオインターフェースで有名なSteinberg社のアプリです。残念ながらiOSのみの対応となりますが実際私が使用しているアプリで本当にお勧めです。
機能を簡単にご紹介すると、希望する拍にクリック音を鳴らすことができるので、変拍子のクリック位置設定も簡単です。詳細は以下からご覧ください。
メトロノーム(機器)紹介
メトロノームをアプリではなく機器でご使用になられたい方は以下を参考になさってください。全て定番の人気商品です。
まとめ
この記事では効果的なメトロノームの使用方法をリズム感・タイム・グルーヴ感の3項目に分けて解説しました。
- リズム感は基本的なリズムの理解
- タイム感はテンポキープの練習方法
- グルーブ感はグルーヴを生み出すコツ
後半では変拍子の練習方法、4小節感覚を身につける重要性、おすすめのメトロノームアプリとメトロノーム本体もご紹介しました。
この記事が音楽の要素で最も重要とされるリズム感・タイム感・グルーヴ感向上の手助けになれば嬉しいです。