ジャズベース講座・実践編・Part3ではThere Will Never Be Another Youのコード分析(アナライズ)について解説します。
実践編・Part1とPart2でコード分析(アナライズ)について詳しく解説しています。こちらの内容をしっかりと理解した上で今回のPart3を取り組んでください。
解説で使用した資料はページの一番下からダウンロード可能ですので是非ご活用ください。
コード分析(アナライズ)の内容
コード分析(アナライズ)には以下の内容が含まれます。
- Keyの判別
- ダイアトニックコードとノンダイアトニックコードの分別
- 各コードに対応するスケールの把握
- 各コードに度数名(Degree Name)を付ける
- Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ等の定番コード進行の箇所を把握
アナライズをすることによって曲の全体像を把握して正確に演奏することが可能になります。
それでは順番に解説していきます。
Keyの判別
Keyの判別方法は以下の3つの手順を経て判断します。
1. 調号からKeyを判別する
調号からKeyを判別する方法に関してはこちらの記事で詳しく解説しています。
2. コード進行からKeyを判別する
コード進行からKeyを判別するには『ツーファイブ進行』を理解している必要があり、こちらの記事で詳しく解説しています。
There Will Never Be Another You(曲名が長いので以後はAnother Youとします)の譜面を見てみましょう。
先ずは調号です。ヘ音記号の横に♭が3つ付いている事から、この曲のKeyはE♭メジャーかCマイナーに絞られました。
Keyを正しく判別するには曲の最後の解決部分を見ましょう。最後2小節のコード進行がFm7-B♭7-E♭Maj7という『Ⅱm7-Ⅴ7-ⅠMaj7』のツーファイブワン進行になっています。この事からKeyはE♭メジャーと判断できます。
3. 耳で最終確認をする
理論的解釈でKey=E♭メジャーと判断出来た後は耳でも確認しましょう。Fm7-B♭7→E♭Maj7で曲が解決した感じがあるはずです。
以上3つの方法を全て行い、最終的なKeyの判別をします。
各コードに対応するアベイラブルスケール
各コードに対応するアベイラブルスケールを導き出し、度数名(Degree Name)を付けます。
以下の3項目を実践します。
- ダイアトニックコードに対応するダイアトニックスケールの確認
- ノンダイアトニックコードに対するスケールの確認
- 各コードに度数名(Degree Name)を付ける
2番のノンダイアトニックスケールの導き出す方法はコードごとに異なります。先ずは基本の考えとなる以下の記事をご覧下さい。
ダイアトニックコードに対するスケールのリストアップは不要と思いますので、ノンダイアトニックコードに対するアベイラブルスケールの解説をします。(コードが出てくる順番ではなく、コードの種類に分けて行います)
アナライズ完成した譜面を見ながら解説を読んでください。譜面はページの一番下からダウンロード可能です。
Dominant 7th(ドミナントセブンス)
ノンダイアトニックのドミナントセブンスコードに対応する主なアベイラブルスケールは以下の6種類になります。
- Mixo-lydian
- Lydian Dominant
- Mixo-lydian♭9♭13(Hmp5↓)
- Mixo-lydian♭13
- Altered
- Half-Whole Diminish(コンビネーション・オブ・ディミニッシュ)
これら6種類の中からどのスケールが使用可能か判断する方法がありますので是非覚えてください。
ノンダイアトニックのドミナントセブンスコードに対応するアベイラブルスケールの導き出し方は以下の手順で行います。
- Keyの判別(曲のKey、または転調している場合は該当部のKeyで判断)
- 対象となるコードトーン(1・3・5度)の確認
- コードトーンに含まれない2・4・6度を加えることによって『スケール』として成立することから、Keyのアイオニアンで構成されている音を2・4・6度に充てる。
- コードトーンと2・4・6度音と加えたスケールの度数を把握して6種類のスケール(Mixo-lydian・Lydian Dominant・Mixo-lydian♭9♭13・Mixo-lydian♭13・Altered・Half-Whole Diminish)中からどれに該当するか判断する。
4小節目・G7(♭9)
- Key=E♭メジャー
- コードトーンはG・B・D・F
- 2・4・6度音をE♭アイオニアンの構成音から充てる→A♭・C・E♭が該当する
- コードトーンと2・4・6度音を加えるとG・A♭・B・C・D・E♭・Fという音で構成されたスケールが完成。
- スケールの度数を確認して6種類のスケールからどれに該当するか判断する。
- 度数の結果からこのスケールはMixo-lydian♭9♭13(Hmp5↓)となる。
6小節目・F7
- Key=E♭メジャー
- コードトーンはF・A・C・E♭
- 2・4・6度音をE♭アイオニアンの構成音から充てる→G・B♭・D音が該当する音
- コードトーンと2・4・6度音を加えるとF・G・A・B♭・C・D・E♭という音で構成されたスケールが完成。
- スケールの度数を確認して6種類のスケールからどれに該当するか判断する。
- 度数の結果からこのスケールはMixo-lydianとなる。
8小節目・E♭7
- Key=E♭メジャー
- コードトーンはE♭・G・B♭・D♭
- 2・4・6度音をE♭アイオニアンの構成音から充てる→F・A♭・C音が該当する音
- コードトーンと2・4・6度音を加えるとE♭・F・G・A♭・B♭・C・D♭という音で構成されたスケールが完成。
- スケールの度数を確認して6種類のスケールからどれに該当するか判断する。
- 度数の結果からこのスケールはMixo-lydianとなる。
10小節目・D♭7
- Key=E♭メジャー
- コードトーンはD♭・F・A♭・C♭
- 2・4・6度音をE♭アイオニアンの構成音から充てる→E♭・G・B♭音が該当する音
- コードトーンと2・4・6度音を加えるとD♭・E♭・F・G・A♭・B♭・C♭という音で構成されたスケールが完成。
- スケールの度数を確認して6種類のスケールからどれに該当するか判断する。
- 度数の結果からこのスケールはLydian Dominantとなる。
20小節目・D7(♭9)
- Key=E♭メジャー
- コードトーンはD・F♯・A・C
- 2・4・6度音をE♭アイオニアンの構成音から充てる→E♭・G・B♭が該当する
- コードトーンと2・4・6度音を加えるとD・E♭・F♯・G・A・B♭・Cという音で構成されたスケールが完成。
- スケールの度数を確認して6種類のスケールからどれに該当するか判断する。
- 度数の結果からこのスケールはMixo-lydian♭9♭13(Hmp5↓)となる。
このコードはセカンダリー・ドミナントコードです。
セカンダリードミナントコードについてはこちらで詳しく解説しています。
21小節目・A♭7
- Key=E♭メジャー
- コードトーンはA♭・C・E♭・G♭
- 2・4・6度音をE♭アイオニアンの構成音から充てる→B♭・D・F音が該当する音
- コードトーンと2・4・6度音を加えるとA♭・B♭・C・D・E♭・F・G♭という音で構成されたスケールが完成。
- スケールの度数を確認して6種類のスケールからどれに該当するか判断する。
- 度数の結果からこのスケールはLydian Dominantとなる。
22小節目・C7
- Key=E♭メジャー
- コードトーンはC・E・G・B♭
- 2・4・6度音をE♭アイオニアンの構成音から充てる→D・F・A♭音が該当する音
- コードトーンと2・4・6度音を加えるとC・D・E・F・G・A♭・B♭という音で構成されたスケールが完成。
- スケールの度数を確認して6種類のスケールからどれに該当するか判断する。
- 度数の結果からこのスケールはMixo-lydian♭13となる。
このコードもセカンダリードミナントコードです。
Minor7th(マイナーセブンス)
マイナーセブンスコードがノンダイアトニックコードの場合のアベイラブルスケールは『ドリアン』一択になります。
There Will Never Be Another Youでは7小節目のB♭m7がノンダイアトニックコードになり、アベイラブルスケールは『B♭ドリアンスケール』となります。
Minor7th♭5(マイナーセブンス・フラットファイブ)
マイナーセブンス・フラットファイブコードがノンダイアトニックコードの場合のアベイラブルスケールは以下の2つになります。
- Locrian
- Locrian♮2(Super Locrian)このスケールはメロディックマイナースケールの第6モードになります。詳しくはこちらをご覧ください。
アドリブソロではどちらのスケールも上手く機能しますが、ベースライン(伴奏)の場合は使い分けたほうが良いでしょう。
伴奏の場合はLocrianを使用する場合が多いので、Locrian♮2を使用するケースを解説します。
以下のコード進行になっている曲ではLocrian♮2を使用します。
Ⅱm7(♭5) – Ⅴ7 – ⅠMaj7
ポイントとして、ツーファイブワンのコード進行、Ⅰ(ワン)のコードがメジャーセブンスになっている場合にLocrian♮2を使用します。
スタンダード曲では、『I Love You』の最初の4小節と『What Is This Thing Called Love』の5〜8小節目がⅡm7(♭5) – Ⅴ7 – ⅠMaj7となっています。
There Will Never Be Another YouではAm7(♭5)がノンダイアトニックコードです。コード進行を見るとAm7(♭5) – D7(♭9) – Gm7となっており、解決するコードがマイナーセブンスとなっている事から、アベイラブルスケールは『Aロクリアンスケール』となります。
各コードに度数名(Degree Name)を付ける
全てのコードに対してスケールを導き出したので、次は各コードの度数を明確にしましょう。
今回初めて出てくるコードにSubstitute Dominant Chord(裏コード)があります。A♭7(♯11)がそれに該当しますが、詳しくは以下の解説をご一読ください。
このA♭7(♯11)はD7(♯11)の裏コードになりますので、記載方法としてはsubⅤ7/Ⅲとなります。subはSubstitute(代わりの)を意味します。右のⅢは次のコードであるⅢm7のGm7を指します。
Ⅱ-Ⅴ-Ⅰコード進行の箇所を把握する
コード進行がⅡ-Ⅴ-Ⅰになっている箇所を見つけます。(ⅠがないⅡ-Ⅴだけの進行も含む)
ツーファイブに関してこちらの記事で詳しく解説しています。
譜面上では『Ⅱ-Ⅴ』と『Ⅴ-Ⅰ』の部分をカッコと矢印で表します。
Ⅱ-Ⅴ-Ⅰになっている箇所を把握できたらアナライズは完了です。
まとめ
ジャズベース講座・実践編・Part3ではジャズスタンダード曲のThere Will Never Be Another Youを題材にコード分析(アナライズ)について解説しました。
『アナライズ』には以下の内容が含まれていました。
- Keyの判別
- ダイアトニックコードとノンダイアトニックコードの分別
- 各コードに対応するスケールの把握
- 各コードに度数名(Degree Name)を付ける
- Ⅱ-Ⅴ-Ⅰ等のコード進行を把握
アナライズをすることによって曲の全体像を把握して正確に演奏することが可能になります。何度も読み返して、少しずつ理解を深めてください。
次のジャズベース講座・実践編・Part4ではベースラインの組み立てる方法をジャズスタンダード曲のFly Me TO The Moonを題材に解説します。