クラシック・コントラバス奏者の大多数がジャーマンスタイルだと思いますが、ジャズのウッドベース奏者にとっては『ジャーマン弓』と『フレンチ弓』の選択は非常に重要な問題になってきます。
この記事では『コントラバス(ウッドベース)で弓弾きをしてみたい』という方を対象に、『ジャーマン弓』と『フレンチ弓』どちらのスタイルを選択すれば良いのかを弓の基本知識を含めて解説します。
筆者である私はジャーマンスタイルですが、フレンチスタイルも個人の先生について2年ほど学んだ経験があります。本職はジャズベーシストとして活動しておりますが、桐朋学園大学にてクラシックも本格的に学びました。参考までにアルコ奏法を多用した曲もYoutubeや配信サービスでアップしていますので宜しければぜひご覧ください。
弓の基礎知識については以下でも解説しています。今回の内容をより深くご理解頂くために、先ずはご一読ください。
楽器の呼び名はジャンルや国によって変わりますが、この記事では『コントラバス』と『ウッドベース』の両方を使用して解説していきます。楽器の名称についての解説はこちらをご覧ください。
長年の経験から有益な情報をお伝えできると思いますので、是非最後までお付き合いください。
弓の種類・形状
ウッドベースにはジャーマンボウ(ジャーマン弓)とフレンチボウ(フレンチ弓)2種類の弓が存在しています。
それぞれの奏法を区別するために以下のような名称で呼ばれます。
ジャーマンスタイル
『ジャーマンスタイル』『ジャーマン式』『ジャーマン』と呼ばれ、以下のような形状の弓を使用します。
フレンチ弓と大きな違いはフロッグと呼ばれる部分の形状です。このフロッグの形状が異なるので持ち方も変わります。
フレンチスタイル
『フレンチスタイル』『フレンチ式』『フレンチ』と呼ばれ、以下のような形状の弓を使用します。
持ち方
ジャーマンスタイル
写真のように下手から弓を持ちます。
フレンチスタイル
上から弓を持ちます。この持ち方はバイオリン・ビオラ・チェロ弓と同じです。(写真の弓はジャーマンスタイルです)
重量
ジャーマン弓、フレンチ弓共に130g前後が理想的な重量です。
弓の良し悪しや、プレーヤーの体格によっても変わりますが、120g後半〜130g後半までの弓を購入すると良いでしょう。数グラム違うだけでかなりの差を感じますので、重量は大切なポイントです。
素材
スティック部の素材は以下の3種類に分かれます。
フェルナンブコ
弓の素材として適しており、良質な弓で使用されています。
ブラジルウッド
フェルナンブコと見た目はほぼ同じですが、強度と質は劣ります。主に低価格帯の弓に使用されています。
※フェルナンブコもブラジルウッドの一つですが、通常ブラジルウッドとはフェルナンブコ以外のものを指します。
カーボン
カーボン(炭素繊維)は弓の材料として適しており、管理がしやすい素材です。
近年は良いカーボン弓が安価で入手できるので初心者や、中・上級者のセカンドボウとしてもお勧めです。
毛の素材・色
弓の毛は馬毛が使用されています。
色は一般的に『白毛』を使用しますが『黒毛』を愛用するプレーヤーもいます。黒毛は白毛よりも引っ掛かりが強く、音色のコントロールも難しいので初心者にはお勧めしません。
割合としては少ないですが白毛と黒毛を混ぜて使うプレーヤーもいます。
毛替えの時期・メンテナンス
使用頻度によりますが、1日1時間の使用で6〜8ヶ月に一度は専門店で交換しましょう。
古い毛はいくら松脂を塗っても弦を上手く引っ掛けて発音することが出来ません。結果的に無駄な力が入ってしまい、悪い癖が付いてしまうので毛替えは適切な時期に必ず行うようにしましょう。
日頃のメンテナンスですが、弾き終わった後はスティック部に松脂が付いているので、柔らかいクロスで拭いてあげましょう。拭いた後は毛を緩めておくことも忘れないようにしてください。
松脂
弓が正常な状態であっても松脂を塗らないと音は出ません。チェロや、バイオリンの松脂を好むプロ奏者もいますが、最初はコントラバス用を使用しましょう。
以下でご紹介しているのは全てコントラバス用の定番松脂です。
Pops(ポップス)
最も柔らかい松脂です。粘着力はありますが、程よい引っ掛かりなので弾きやすさは抜群です。夏場はケースに入れていないと形が崩れるので、管理には注意を払う必要があります。
Carlsson(カールソン)
Popsよりは固い松脂ですが引っ掛かりは強めです。Popsと同じく、コントラバスで最もポピュラーな松脂です。
Nyman(ニーマン)
Carlssonとかなり質感が似ている松脂です。
Kolstein/(コルスタイン)
『Hard』『All Weather』『Soft』の3種類がありますがSoftがお勧めです。
PopsとCarlssonの間のような存在の松脂で多くのコントラバス奏者に愛用されています。
それぞれのメリット・デメリット
ここからはジャーマン式とフレンチ式を項目に分けて解説します。
持ちやすさ
人によって感じ方は変わりますが傾向としてジャーマンスタイルの方が持ちやすいと感じるプレーヤーが多いです。やはり下から弓を持つことが持ちやすさに関係していると思われます。
姿勢・腕の可動範囲
上手握りな分だけフレンチスタイルの方が腕の可動範囲をコンパクトにできます。これにより、姿勢もフレンチスタイルの方がごく僅かですが自然な状態を保てます。
楽器の角度
フレンチスタイルの方が楽器を構える角度をある程度自由に設定できます。これは上記の姿勢と腕の可能範囲が関係しています。
ジャーマンスタイルは基本的に楽器をほぼ垂直にして構えます。これは弓と弦が直角に交わっている状態で弾くことが重要だからです。また垂直に構えることによって姿勢も自然な状態を保てます。
移弦
上手握りのフレンチスタイルの方が移弦に有利です。ジャーマンスタイルは下手握りなので、フレンチスタイルよりも物理的に移動(移弦)距離が長くなります。
音色・音量
プレーヤーの体格や使用する楽器、弓、弦等も音色と音量に深く関係していますが、一般的に以下のような特徴があります。
- ジャーマン 力強くて太い音色と大きい音量が出しやすい。
- フレンチ 繊細で綺麗な音色は出しやすいが音量はジャーマンスタイルより落ちる。
オーケストラのコントラバスセクション、クラシックのソリスト、ジャズベーシストで弓奏法を多用するプレーヤーを生のコンサートやライブで沢山聴いてきましたが、上記の特徴が大体当てはまります。もちろん例外はありますので、あくまで一般論と捉えてください。
師事する先生
ブログ記事やYoutubeで様々な情報を入手でき、オンラインだけでも楽器はかなりのレベルまで上達は出来ると思いますが、正しいアルコ奏法を習得するためには個人の先生について対面で習う以外方法はありません。独学での習得は不可能と断言しておきます。それほど弓弾きをマスターするのは困難で難しいものです。
このことから師事する先生を探す必要がありますが、正しくしっかりと学びたいのであればプロのクラシックコントラバス奏者に師事しましょう。当然なことですが、ジャズ専門のプレーヤーは正しい弓奏法を教えられませんし、逆にクラシック専門のプレーヤーはジャズを教えることは不可能です。(ジャズベーシストでも弓をマスターされているプレーヤーはいますが、片手で数えるほどしかいないのが現状です)
ジャーマン or フレンチ
本題の『ジャーマンスタイル』か『フレンチスタイル』のどちらをチョイスするかですが、結論から言うと、ほとんどの人は『ジャーマンスタイル』を選択された方が良いと考えます。明確な理由がありますので順番に解説します。
大前提として、日本では『ジャーマンスタイル』を使用するプレーヤーが9割以上を占め、フレンチボウを使用するプロのクラシックコントラバス奏者は1割程度です。
先ほども述べましたが、正しく弓弾きをマスターするのであれば、プロのクラシック奏者に師事する以外方法はありません。ジャーマンスタイルの先生は絶対数が多いので探しやすいと思いますが、フレンチスタイル奏者は人数が少ないので、先生を探すだけでも難しい状況です。
仮にフレンチスタイルの先生を見つけられたとしても、その方が自分に合った先生とは限りません。弓弾きは少し習えば後は独学でマスターできるほど簡単ではありませんので、長くレッスンを受講する必要があります。先生との相性(人間性、教え方、奏法など)が合わないとレッスンの継続は難しくなり、結果的にマスターできずに終わってしまいます。新しく先生を見つけようと思っても絶対的人数が少ないフレンチスタイルの先生を探すのは難しいでしょう。
もちろんこれはジャーマンスタイルを選択しても起こり得る問題と思いますがフレンチスタイルの先生よりは圧倒的にジャーマンスタイルの先生は探しやすいです。
特にクラシック系音楽大学の先生のほとんどがジャーマンスタイルなので、日本で勉強してオーケストラ入団を目指す場合はジャーマンスタイル強くをお勧めします。
これにも理由があります。オーケストラでは複数(4〜8人)の奏者が1つのセクション、1つのグループとして音を出します。音を出すタイミングや強弱をセクション内で合わすことは当然ですが、音色を揃えることも極めて重要視されます。弓のスタイルは音色に大きく関係していますから、オーディションでは同じ弓のスタイルの奏者が有利と考えて良いでしょう。
『音色を揃える』ことに関しては国やオーケストラごとに方針や考えがあり、必ずしも同じ弓のスタイルで統一している訳ではありませんが、日本のオーケストラは『ジャーマンスタイル』で統一する傾向にあると感じます。(フレンチスタイルが圧倒的に少ないという事実もありますが)
以上の理由から日本でクラシック音楽を勉強される方はジャーマン式をお勧めします。
ジャズベーシストで弓を本格的に学ばれたい方は、以下に当てはまっていればフレンチスタイルも選択可能です。
フレンチスタイルをお勧めできるプレーヤー
- バイオリンやチェロの経験がある
- フレンチスタイルのプロクラシック奏者(先生)がレッスンに通える範囲に2人以上いる
- 海外留学の意思・予定がある
ジャーマンスタイルがお勧めなプレーヤー
- クラシック音楽を専門する
- 日本のプロオーケストラに所属したい
- 沢山の先生の中から師事する先生を探したい
- 日本で演奏活動する
結論・まとめ
日本で勉強と活動をする事を前提として、クラシック音楽を専門にするのであれば余程のこだわりがない限り『ジャーマンスタイル』を選択しましょう。
ジャズベーシストで、メロディーやアドリブソロを弾くのが目的であればどちらのスタイルでも問題はありませんが、日本で勉強する事を考慮すると『ジャーマンスタイル』がお勧めです。フレンチスタイルを弾く良い先生がいて、強い意志がある場合のみ『フレンチスタイル』も選択可能です。
『ジャーマンスタイル』『フレンチスタイル』のどちらにもメリット・デメリットがあり、どちらが圧倒的に優れている訳ではないです。実際は好きな方を選んでくださいとお伝えしたいのですが、日本で学ぶ事を考慮すると『ジャーマンスタイル』を選択するのが無難という結論に至ります。
この記事が少しでも弓選びの参考になれば嬉しいです。